約款を甘く見ないこと

自動車保険の見積もりを行い、保険会社を選び契約すると、「普通保険約款及び特約事項」などという表題のパンフレットを貰う。しかし、これを精読する契約者はまずいない。一度読んでみようと思っても、字が小さく、それにもって回ったような悪文だから、少し読んだだけで止めてしまう。
しかし、実際には非常に重要なことが書いてある。特に、このような場合には保険金は払いませんとか、損害は填補しませんというような箇所は必ず精読しておく必要がある。意味を取り違えたり、勘違いしたり自分流に解釈しないことである。後でそんなはずではなかった、と後悔しても遅い。保険会社は約款違反には容赦しないから注意が必要である。
次に約款を盾に、思いもかけずに保険金の支払いを拒否されそうになった事例を述べる。多くの事故の中には、このような特異なことも起こる。
保険契約者または被保険者は、事故が発生したことを知った時は、日時、場所及び事故の概要を直ちに保険会社に通知すること。もし、正当な理由がなくてこの規定に違反した時は、保険金を払いません、という意味の文言が約款にある。
実際には事故連絡はすぐになされるのが普通であるから、あまりこの関係の問題は起こっていないようである。しかし、この規定でも自分流に解釈して行動すると、思わぬ落とし穴に落ち込むこともある。保険会社は、絶えず約款に照らして契約者をチェックしているから、たとえ自分はそれでいいはずだ、と考えても、念には念を入れ慎重になることである。
某Nさんの場合はこうであった。
その日、自営の業務車でお得意回りをしていたNさんは、さっきの訪問先での見積もりの相違に関するクレームのことで頭がいっぱいになって運転していた。そのせいで前方の交差点を左折しようとして、合図を出して減速している乗用車が目に入らなかった。慌ててハンドルを右に切って避けようとした。速度はそんなに出ていなかったが、道路は片側一車線だったし、それにあまりにも接近していたので間に合わず、自車の左側を相手車の右後に擦るように衝突させてしまった。
しかし、Nさんは止まらなかった。そのままフラフラと車を走らせると、100メートルくらい先の交差点で信号待ちをしていた軽四貨物車に追突してしまった。
Nさんは、後で冷静になっていくら考えても、最初に衝突してから後のことが思い出せなかった。勿論、逃げる気など毛頭なかった。
しかし警察では、最初の衝突のあと故意で逃げた、と見なされ、随分と責められたが、Nさんは強く反論し釈明した。その結果、逃げ切ってしまって捜査の上、後日になて身柄が確保された事案ではなかったこともあって、最後にはNさんの言い分を通してくれた。結局、警察は最初とその後の事故は分離し、物損と人身の二事故ということになった。軽四の運転者は、現場で頸部の痛みを強く訴え救急搬送されていた。
Nさんは、その日のうちに代理店に連絡し一切を任せた。軽四の運転手は、意外と重い鞭打ち症だったので、頸部を固定されてそのまま数日の入院ということになったので、その見舞いなどでそれからの何日かは慌ただしく過ぎた。その間も、Nさんは事故の対処は保険会社が漏れなくやってくれているものと思い疑わなかった。
しかし、10日くらい経った噴、最初に衝突した乗用車の運転者からクレームがあった。「追突しておきながら、何も言って来ないというのは、どういう了見だ」ときつい口調なのである。
驚いて代理店に連絡をとると、「そんな事故は聞いていない」という意外な返事である。
Nさんには、思い当たるところがないわけではなかった。最初の事故については、確かに話していなかった。別に隠すつもりはなかったのだが、大した衝突でもない、という思いがあったし、後の追突の方が現場に救急車やパトカーが来て、非常にインパクトが大きかった。あの追突で、その後暫くは頭が一杯になっていた。自分でもどうしてああなってしまっのか、はっきりとはわからないのであるが、多分、気持ちの中に幼稚で恥ずかしい事故だという思いがあったので、つい言いそびれてしまった。
それにしても、どうせ同じ事故なんだから、たとえあの追突だけの通知でも、事故通知になる。第一、事故証明を取れば、事故の全体がすぐにわかるはずだ。それくらいのことは、当然保険会社がやるべきことではないか。後日、Nさんはこのように自分の思いを述べている。(二事故になると、事故証明も別々である)
事情を知った代理店は、すぐに保険会社の査定担当者に連絡した。その回答は、「直ちに連絡を貰わなかったので、最初の事故の保険金は支払いません。約款にはそうある」ということである。
「しかし、別に期限は書いていない」と反駁する代理店に、「20日も経ったら、もう直ちにじゃない、とするのが常識でしょう」という返事である。「しかし、約款では60日以内に通知すればいいことになっているじゃないか」と重ねての反論に、「いや、あれは対人賠償の場合に書面によって、事故概要や被害者の氏名住所を通知することであって、この問題は別のことです」ということであった。
しかし、その代理店は、Nさんが古くからのお得意さんであり、簡単に引きがるわけにはいかなかった。担当者は、代理店の強硬な反論だったので、無下には冷たくあしらえなかったものと見える。結果的には、その判定を引っ込めた。
実のところ、代理店は疑っていた。あの担当者は、調査担当者から聞いて最初の衝突についても知っていたのではないか。たまたま契約者からその連絡がなかったので、そのままにしておいてこのような態度に出たらしい。
このような事例は稀である。Nさんにも問題がある。深く考えないで、自分の都合本位に行動したことが、後で問題になってしまった。約款に合っているかどうかをチェックするのは、担当者の非常に重要な職務事項だから、厳しく目を見張っている。約款を軽く見て、思わぬ落とし穴に落ちないことである。

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